豆知識
歯科医師国保とは?保険給付の内容やメリット・デメリットを紹介
12 days ago

「歯科医師国保とはどのような保険かよく分からない」という方もいるでしょう。歯科医師国保とは、歯科医師会の会員である歯科医師や、歯科医師によって開設された診療所で勤務する従業員などが加入できる保険のことです。この記事では、歯科医師国保の保険給付の内容やほかの保険との違いについて紹介します。歯科医師国保に加入するメリット・デメリットについても解説するので、ぜひ参考にしてください。
歯科医師国保とは?
歯科医師国保とは「歯科医師国民健康保険」のことで、歯科医師会の会員である歯科医師や従業員、その家族などが加入できる医療保険制度です。歯科医師国保は、全国に複数ある「歯科医師国民健康保険組合」によって運営されています。
歯科医師国民健康保険組合は、都道府県単位で設置されているのが基本です。ただし、東京都のように歯科医師国民健康保険組合が設置されていなかったり、都道府県単位ではなく、複数の都道府県にある支部からなる「全国歯科医師国民健康保険組合」の管轄になっていたりすることもあります。
そのため、歯科医師国保への加入を検討する際には、自身の所属する歯科医師会は、どの組合に属しているのかを確認しておくことが必要です。
被保険者の種別
全国歯科医師国民健康保険組合「被保険者と組合員」によると、全国歯科医師国民健康保険組合の場合、歯科医師国保の被保険者は、以下の4つに種別分けされています。
1種組合員 | - 支部所在地の歯科医師会会員である歯科医師 - 該当の地区内に住所を有する方 |
2種組合員 | - 1種組合員である歯科医師が開設または管理する診療所に雇用される歯科医師 - 該当の地区内に住所を有する方 |
3種組合員 | - 1種組合員である歯科医師が開設または管理する診療所に雇用される従業員(歯科技工士や歯科衛生士、歯科助手、事務員など) - 該当の地区内に住所を有する方 |
家族 | - 組合員と同一世帯に属している方 |
参考:全国歯科医師国民健康保険組合「被保険者と組合員」
ほかの歯科医師国民健康保険組合では、2種組合員と3種組合員が区別されていなかったり、「甲種組合員」や「乙種組合員」など、別の呼称が用いられていたりと、上記のとおりでないこともあります。細かい種別分けや規定は組合によって異なるものの、歯科医師国保では、組合員の種別ごとに保険料や利用できる保険給付の種類などが決められているケースが多いでしょう。
なお、全国歯科医師国民健康保険組合「医療法人歯科医院等の健康保険被保険者適用除外承認申請」によると、全国歯科医師国民健康保険組合では、従業員の労働時間・日数によって、被保険者として取り扱うか否かが判断されます。パートタイマーとして勤務するケースでは、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上である場合、歯科医師国保の被保険者になることが可能です。
参考:全国歯科医師国民健康保険組合「被保険者と組合員」
全国歯科医師国民健康保険組合「医療法人歯科医院等の健康保険被保険者適用除外承認申請」
歯科医師国保の保険給付
全国歯科医師国民健康保険組合「保険給付」によると、保険給付とは、組合員およびその家族が病気・けが・出産・死亡した際に、医療そのものや給付金などを支給することです。
全国歯科医師国民健康保険組合の場合、保険給付は「法定給付」と「任意給付」の2つに分けられます。ここからは、全国歯科医師国民健康保険組合の保険制度を例に、保険給付の内容を見ていきましょう。
法定給付
全国歯科医師国民健康保険組合「保険給付」によると、法定給付とは、法律で給付の内容や範囲が定められているもののことです。
全国歯科医師国民健康保険組合「保険給付一覧」によると、全国歯科医師国民健康保険組合の法定給付には、以下のようなものがあります。
- 療養の給付(被保険者証を提示し、医療機関で医療を受けること)
- 療養費の支給(被保険者証を提示せずに診療を受けた場合に、あとで現金の払い戻しを受けること)
- 高額療養費の支給
- 移送費(診療を受けるために移送された際にかかる費用)の支給
- 出産育児一時金:出産(妊娠4ヶ月以上の死産・流産を含む)した場合、1児につき50万円が支給される
- 葬祭費:被保険者が死亡した場合、被保険者の種別によって10~30万円が支給される
また、海外渡航中の疾病について、海外の医療機関で療養を受けた場合の費用について給付を受けられる「海外療養費」の制度も整えられているようです。
任意給付
全国歯科医師国民健康保険組合「保険給付」によると、任意給付とは、組合が独自の規定に基づき給付するもののことです。
全国歯科医師国民健康保険組合「保険給付一覧」によると、全国歯科医師国民健康保険組合では、以下の2つが任意給付として設けられています。
- 傷病手当金:入院1日につき、4000円が支給される(支給期間は、同一年度内で90日が限度)
- 出産手当金:産前6週間、産後8週間において就業しなかった期間について、1日につき4000円が支給される
これらは、組合員が病気やけが・出産などで入院した場合に、現金支給が受けられるものです。
前述のとおり、任意給付は組合ごとに内容が異なるため、組合によっては上記のような給付制度がない場合もあります。そのため、任意給付の内容については、自身が加入する組合の規定で事前に確認しておくと良いでしょう。
参考:全国歯科医師国民健康保険組合「保険給付」
全国歯科医師国民健康保険組合「保険給付一覧」
歯科医師国保とほかの保険との違い
ここまで、歯科医師国保の概要や保険給付の内容について見てきました。ここからは、歯科医師国保とほかの保険との違いを紹介します。
歯科医師国保と市町村国民健康保険との違い
歯科医師国保と市町村国民健康保険との違いの一つは、加入対象者です。前述のとおり、歯科医師国保は歯科医師会の会員である歯科医師や従業員などが、加入の対象となります。
一方で、厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」によると、市町村国保の場合、ほかの医療保険に加入していない方や生活保護を受けていない方、後期高齢者医療制度に加入していない方であれば、加入が可能です。
また、傷病手当金の有無も、歯科医師国保と市町村国保の違いの一つといえます。市町村国保では、傷病手当金の制度はありません。一方で、歯科医師国保の場合、けがや病気により就業ができない期間の保障として、傷病手当金の制度が設けられていることが多いようです。
ただし、歯科医師国保においては、傷病手当金の支給が義務付けられているわけではありません。組合によっては傷病手当金が支給されないこともあるため、利用を検討している方は事前の確認が必要です。
歯科医師国保と社会保険との違い
歯科医師国保と社会保険の違いは、保険料の金額設定の仕組みです。歯科医師国保の場合、基本的には組合員の種別ごとに保険料が定められています。
福岡県歯科医師国民健康保険組合「令和7年度版 被保険者のしおり」によると、福岡県歯科医師国民健康保険組合の場合、2025年度の医療保険料は以下のとおりです。
- 甲種組合員(開設者および管理者):3万円
- 甲種組合員(勤務者):1万2000円
- 乙種組合員:9500円
- 家族(1人につき):6500円
また、上記の医療保険料に、以下の保険料が加算されます。
- 前期高齢者支援金保険料:1700円
- 後期高齢者支援金保険料:5000円
- 介護納付金保険料(40歳以上65歳未満の被保険者のみ):5100円
このように、多くの歯科医師国保では、保険料が定額となっているのが特徴です。
一方で、社会保険の場合、保険料は被保険者の前年の所得金額に基づいて算出されます。そのため、所得金額の変動に合わせて保険料も変わる点が、歯科医師国保との大きな違いです。
参考:厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」
福岡県歯科医師国民健康保険組合「被保険者のしおり(令和7年度版)」
歯科医師国保に加入するメリット
歯科医師国保に加入するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、2つの大きなメリットを紹介します。
保険料が定額である
歯科医師国保に加入するメリットは、保険料が定額であることです。前項で紹介したとおり、多くの歯科医師国保では、保険料が組合員の種別ごとに決められているため、所得金額などによる保険料の変動はありません。よって、所得金額が大きく増えた場合も、保険料が跳ね上がる心配がない点がメリットといえます。
また、保険料が一定であるため管理がしやすいほか、所得金額によっては、ほかの保険より歯科医師国保のほうが保険料を安く抑えられるケースがある点もメリットの一つでしょう。
独自の保健事業を利用できる
組合独自の保健事業を利用できることも、歯科医師国保に加入するメリットです。
全国歯科医師国民健康保険組合「当組合の保険事業」によると、全国歯科医師国民健康保険組合では、以下のような保健事業を行っています。
- 医療費通知:受診した日数や医療費の額などを確認できる医療費通知が、年に6回送付される
- メンタルヘルス事業:電話や面接、インターネットなどによるカウンセリングが受けられる
- 啓発事業(リフィル処方箋):長期間にわたって症状が安定しており、同じ薬を服用している慢性疾患の患者に対し、医師の診察を受けることなく、薬局で薬を受け取れる「リフィル処方箋」の発行を最大で3回利用できる
- eラーニングコンテンツ:メンタルヘルスや感染症対策、食生活・栄養、職場環境など、さまざまなテーマに関する動画コンテンツを利用できる
- 節目健診事業:5歳ごとの節目の年齢に受けた健診に対して、1人当たり3万円までの補助金が支給される
- がん検診事業:検診費用の一部に対して、補助金が支給される(支給額は、がん検診の種類によって異なる)
- インフルエンザ予防接種補助:年に1回、1人当たり4000円までの補助金が支給される
- 高額療養費資金貸付制度:高額療養費の支給を受けるまでの間、療養に要する費用を支払うための資金の貸付が受けられる
- 出産費資金貸付制度:出産育児一時金の支給を受けるまでの間、出産に要する費用を支払うための資金の貸付が受けられる
保健事業は任意給付と同様に、組合によって内容や条件が異なります。そのため、利用を検討している場合は、自身が加入する組合の規定による確認が必要です。
参考:全国歯科医師国民健康保険組合「当組合の保険事業」
歯科医師国保に加入するデメリット
歯科医師国保に加入する場合、いくつかのデメリットもあります。ここからは、歯科医師国保に加入するデメリットを3つ見ていきましょう。
扶養家族の人数分の保険料がかかる
歯科医師国保では、市町村国民健康保険や社会保険にあるような「扶養」の制度がありません。つまり、歯科医師国保に加入する場合、家族の人数分の保険料の支払いが必要です。
そのため、扶養家族の人数によっては、社会保険などに加入した場合と比べると、保険料が高くなることもあるでしょう。
自家診療は保険対象外となる
大阪府歯科医師国民健康保険組合「よくある質問Q&A」によると、大阪府歯科医師国民健康保険組合に加入している場合、自身が属する医療機関で受けた診療に対しては保険請求ができない決まりとなっています。
ほかの組合においても、自身の勤務先や分院などで受診する「自家診療」に対しては、保険請求の対象外としているケースが多いようです。
この場合、組合員である歯科医師や従業員だけでなく、その家族の診療に対しても保険は適用されません。そのため、医療機関側が保険料の一部負担するなどの制度を設けていない場合、自家診療分の費用は10割負担となり、加入者の自己負担額は大きくなります。受診料を抑えるためには、ほかの医療機関で受診する必要があるため、デメリットだと感じる方もいるでしょう。
参考:大阪府歯科医師国民健康保険組合「よくある質問Q&A」
就業先の従業員数によって加入できない場合がある
歯科医師国保のデメリットは、就業先の従業員数によって加入できない場合があることです。
全国歯科医師国民健康保険組合「医療法人歯科医院等の健康保険被保険者適用除外承認申請」によると、法人事業所および常時5人以上の従業員を雇用する診療所に勤務する方は、原則協会けんぽと厚生年金に加入することとなります。
そのため、就業先が法人事業所になったり、常時勤務している従業員数が5名以上になったりした場合、歯科医師国保に残ることは原則できません。ただし、就業先が適用除外の申請を行う場合に限り、歯科医師国保への加入を継続することが可能です。
参考:全国歯科医師国民健康保険組合「医療法人歯科医院等の健康保険被保険者適用除外承認申請」
歯科医師国保とは歯科医師や従業員が加入できる保険
- 歯科医師国保は、全国にある歯科医師国民県保健組合によって運営されている
- 歯科医師国保は歯科医師会の会員である歯科医師や従業員、その家族が加入できる
- 歯科医師国保は、組合独自の保健事業が利用できるメリットがある