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インシデントレポートの書き方は?ポイントと例文をご紹介!
12 days ago

「インシデントレポートをどのように書けば良いか分からない」とお悩みの方もいるでしょう。インシデントレポートを書く際は、いつ・どこで・誰に・なぜ・何を・どのようにといった、6W1Hの情報を押さえることで読み手が分かりやすくなります。
インシデントレポート作成のポイントや注意点についてまとめました。インシデントレポートのケース別例文も記載しているので、ぜひご一読ください。
インシデントレポートとは
インシデントレポートとは、業務中にミスにつながる可能性のある出来事や、不適切な行為が発生した際に、原因を明らかにするために作成される報告書です。インシデントレポートは、原則、出来事を起こした本人や発見者が記録を行います。ただし、職種によってはインシデントを起こした本人の上司が代わりに記入する場合もあるようです。
インシデントが起きたら、まず所属している部署や診療科の責任者に報告し、インシデントレポート作成についての指示をもらいましょう。
インシデントとアクシデントの主な違い
厚生労働省「医療安全推進総合対策〜医療事故を未然に防止するために〜」によると、「インシデント」とは、日常診療の場で誤った医療行為などが患者に実施される前に発見されたもの、あるいは結果として患者に影響を及ぼすに至らなかったもののことです。
現場で「ヒヤッ」としたり「ハッ」とした経験に由来し、「ヒヤリ・ハット」と呼ばれることもあります。
一方、医療現場において「アクシデント」とは、医療事故のことです。誤った医療処置が実際に行われ、患者に影響や被害を与えてしまった事例を指します。つまり、インシデントは医療事故に至る前の段階といえるでしょう。
参考:厚生労働省「報告書等」
インシデントレポートを書く目的
インシデントレポートを書く目的は、医療現場において同じようなミスを繰り返さないように記録を残すためです。
厚生労働省「職場のあんぜんサイト ハインリッヒの法則」によると、アメリカの損害保険会社の安全技師であったハインリッヒが提唱した「ハインリッヒの法則」では、1件の重い災害の背後には、29件の軽傷と300件の傷害のない事故が起きているとされています。つまり「ハインリッヒの法則」では、重い事故は突発的に起こるのではなく、日常的な小さなミスや異常の積み重ねによって引き起こされることを示しているといえるでしょう。
よって、インシデントの段階で問題に気づき、原因を明らかにして対応をすれば、先に起こる可能性のある事故や医療ミスを未然に防げると考えられます。
参考:厚生労働省「職場のあんぜんサイト」
インシデントレポートの書き方のポイント
インシデントレポートは多くの場合、医療機関毎に用意されたテンプレートを使用して記入します。電子カルテに入力する際は、規定の入力フォームが使われることもあるようです。
しかし、初めてインシデントレポートを記入する人にとっては、テンプレートやフォームがあってもどのように書けば良いか分からない場合もあるでしょう。ここでは、インシデントレポートを作成するうえで押さえておきたいポイントを紹介します。
6W1Hで発生状況について記載する
インシデントレポート作成の際は、「6W1H」の要素を押さえるのがポイントです。「6W1H」の要素を押さえておくことで、インシデントが起きたときの状況が整理され、読み手に内容が明確に伝わりやすくなります。「6W1H」の詳細は、以下のとおりです。
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- Whom(誰に)
- Why(なぜ)
- What(何を)
- How(どのように)
インシデントレポートを書く際に、登場人物が複数いる場合は、主語を明確にして誰が何をしたのかが正確に分かるように記載しましょう。さらに、今後の対策や改善策まで書けると、より実用的なレポートになります。
インシデントレベルを記載する
インシデントレポートには、誤った医療行為が患者に与えた影響の程度を示す「インシデントレベル」を記述しなければなりません。インシデントレベルの分類方法は医療機関によって異なり、たとえば、レベル3が「3a」「3b」「3c」などと細かく分けられている場合もあります。
代表的なインシデントレベルの分類例は、以下のとおりです。
分類 | インシデントレベル | 内容 |
---|---|---|
インシデント | レベル0 | 誤った医療行為が患者に実施されなかった |
レベル1 | 誤った医療行為が患者に実施されたものの実害はなかった | |
レベル2 | 誤った医療行為によって患者の経過観察や検査が必要になった | |
アクシデント (医療事故) |
レベル3a | 誤った医療行為により、一時的な処置や治療が必要になった |
レベル3b | 誤った医療行為により、継続的な処置や治療が必要になった | |
レベル4a | 誤った医療行為により、長期的な処置や治療が必要なものの、機能障害は残らなかった | |
レベル4b | 誤った医療行為により、永続的な障害や後遺症、機能障害が患者に残った | |
レベル5 | 誤った医療行為により、患者が死亡した |
上記の例のように、インシデントレベルが一定の数値を超えると、「インシデント」ではなく「医療事故」として扱われる仕組みになっていることもあるようです。
インシデントの原因と対策を記載する
再発防止につなげるため、インシデントレポートにはインシデントが起きた背景や要因を掘り下げて記述します。発生の状況だけでなく、誤りや見落とし、思い込みなどが重なっていないかなど、多角的に原因を分析しましょう。
インシデントが起きた原因を分析したうえで、インシデントレポートには状況に応じた対策を記述します。対策が偏らないよう、ほかのスタッフの意見も取り入れることで、より実行性の高い改善案を導き出せるでしょう。
インシデントレポートのケース別例文
ここまで、インシデントレベルについてや書き方のポイントを見てきました。ここからは、厚生労働省「重要事例集計結果」をに記載されたインシデントを参考に、インシデントレポートのケース別例文を紹介します。
例文1:薬袋への内服回数の記載ミス
薬袋への内服回数の記載ミスがあった場合の、インシデントレポートの例文は以下のとおりです。
発生日時 | △月△日午前10時20分ごろ |
発生場所 | 東病棟3階 脳神経外科病棟 ナースステーション内薬剤準備室 |
レベル | 2 |
発生状況 | △月△日午前10時20分ごろ、看護師Bが患者Aに処方された1日1回内服の薬について、カルテを見ながら薬袋に内服回数を記入する際、「1日1回・3日分」と記載するところを「3回1日」と記載してしまった。 記載した看護師Bは内服回数の記載ミスに気づかないまま、別の看護師Cが薬を溶かして準備していたところ、3日分の薬が1日で無くなることに気づき、内服回数の記載ミスが発覚した。 |
原因 | 内服回数を記載する際の確認ミス。 |
対策 | 薬袋記載時に、カルテと薬袋の記載を指さし呼称・2人以上の看護師で確認する。 |
薬袋への内服回数の記載ミスは、患者の誤った服薬につながります。内服回数を薬袋に記載する際は、指示内容を正確に確認し、ダブルチェックを徹底しましょう。
例文2:薬の管理ミス
薬の管理ミスをした場合のインシデントレポートの例文は、以下のとおりです。
発生日時 | △月△日午後3時30分ごろ |
発生場所 | 西病棟2階 外科病棟 |
レベル | 2 |
発生状況 | △月△日午後3時30分ごろ、他科受診で内科を受診した患者Bに対して睡眠薬が処方された。過去に、患者Bが睡眠剤を一度に多量に服用した経緯があり、以降はナースステーション内で睡眠薬を管理する対応がとられていた。 対応についてはカルテ内に記載があったうえ、同日の申し送りでも報告があった。しかし、確認不足により、看護師Aは内科外来で処方された睡眠薬を、帰室時にそのまま袋ごと患者Bに渡してしまった。 |
原因 | 看護師Aの確認不足。 |
対策 | 薬の本人管理が難しい場合は、カーデックスや薬の管理箱にその旨を明記する。 患者に薬を渡す前は、特別対応などがないか今一度カルテを確認する。 |
薬の本人管理が難しい場合は、患者情報をスタッフ間で共有し、薬の管理体制を徹底しなければなりません。上記のように、カーデックスや薬の管理箱、カルテなど容易に視認できる箇所に薬の本人管理が難しい旨を明記し、再発防止を図る必要があります。
例文3:患者間違い
患者間違いをした場合のインシデントレポートの例文は、以下のとおりです。
発生日時 | △月△日午後12時15分ごろ |
発生場所 | 北病棟7階 消化器内科 716号(患者C・患者Dの病室) |
レベル | 2 |
発生状況 | 日勤帯の午後12時15分ごろ、患者Cの受持ち看護師Aが患者Cの点滴(メインと側管)を準備して交換を行った。別の看護師Bが患者Dのビーフリード輸液の交換を行おうとした際、患者Dのビーフリード輸液が見当たらず、代わりに患者Cのビーフリード輸液が残っていることに気づいた。 患者Dの点滴がなく患者Cの点滴が残っている状況を、看護師Bが看護師Aに確認したところ、患者Cに患者Dの点滴ボトルを誤ってつないでいたことが判明した。なお、患者Cと患者Dの点滴内容は同一であったため、ボトルの氏名表記を油性ペンで訂正のうえ、そのまま使用した。 |
原因 | 看護師Aが点滴をワゴンに乗せる際、患者氏名の確認が十分でなかった。看護師Aは「準備した点滴は患者Cのものである」という思い込みがあった。 また、看護師Aはリストバンドと点滴ボトルの患者氏名確認が不十分で、指さしや声だしによる確認も行っていなかった。 さらに、患者Cと患者Dの点滴の中身・量・点滴速度が同じで、ボトルは漢字表記・リストバンドはカタカナ表記で合ったことから、見分けがつきにくく、取り違えにつながった。 |
対策 | 点滴をナースステーションからベッドサイドへ運ぶ際は、ラベルに記載されたフルネームを確認する。ベッドサイドでは、リストバンドと点滴ボトルの患者氏名を声に出して指さしながら確認を行い、可能であれば患者本人にも一緒にボトルを確認してもらう。 同姓や類似した名前に関する注意喚起は、カーデックスや入院患者掲示板に表示されていたにもかかわらず誤認が起きたため、日ごろから確認行為を意識づける必要がある。 また、バーコードなどを活用した患者認識システムを導入することで再発防止につながる。 |
患者間違いによる投与ミスは、医療事故につながりかねません。氏名や治療内容が類似している場合、思い込みを避け、患者のリストバンドや点滴ボトルのフルネーム確認を徹底することが重要です。声だし確認や指差し確認、患者と一緒に確認するといった方法で再発防止を図る必要があります。
参考:厚生労働省「重要事例集計結果」
インシデントレポートを書く際の注意点
ここまで、インシデントレポートの書き方のポイントや例文を紹介してきました。ここからは、インシデントレポートを書く際の注意点を見ていきましょう。
言い訳や他責をせず事実のみを記載する
インシデントレポートを作成する際は言い訳や他責をせず、起きた事実のみを客観的かつ簡潔に記載することが大切です。
自分のミスに関わるインシデントレポートを記入する際、他責にしたり反省や弁解を書きたくなったりすることがあるかもしれません。しかし、インシデントレポートは事実を共有し、再発防止を図るためのものであり、始末書とは異なります。
日時や投与量を正確に記載する
インシデントレポートを書く際は、日付や時刻、投与量など、数値で表せる情報はできるだけ正確に記載しましょう。特に時間は分単位まで記録するのが望ましく、発生状況の把握や分析に役立ちます。インシデントレポートに正確な数値で記されていると、読み手に出来事を把握してもらいやすくなるでしょう。
簡潔に分かりやすく記載する
インシデントレポートを書く際は、誰が読んでも状況を正確に把握できるよう、簡潔で要点が整理された文章を心掛けることが大切です。特に医療現場では、限られた時間で患者の情報や状況などを処理する必要があるため、インシデントレポートの読みやすさが重要になります。回りくどい表現や不要な説明は避け、主語・述語を明確にしながら、時系列に沿って簡潔にまとめると読み手に伝わりやすくなるでしょう。
インシデントレポートの書き方は6W1Hを意識しよう
- インシデントレポートとは、不適切な医療行為に対する再発防止のための報告書
- インシデントレポートは、6W1Hを意識して発生状況や原因・対策を記載する
- インシデントレポートを書く際は、事実のみを簡潔に分かりやすく記載する