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見当識とは?症状や対応方法、認知症について紹介
7 days ago

「見当識とは何かよく分からない」という方もいるでしょう。見当識とは、時・場所・人などの基本的な状況を把握する力のことです。また、時・場所・人に対する認知力が低下することを見当識障害や失見当識と呼びます。この記事では、見当識障害の種類や症状について紹介します。見当識障害がある方との関わり方のポイントについても解説するので、ぜひ参考にしてください。
見当識とは
厚生労働省「政策レポート 認知症を理解する」によると、「見当識(けんとうしき)」とは、現在の年月や時刻、自分がいる場所などの基本的な状況を把握する力のことを指します。自分と相手の関係性がつかめたり、その場に適した行動ができたりするのは、見当識が正常に機能しているためとされています。
そして、見当識に障がいが生じ、基本的な状況が把握できなくなる状態は「見当識障害」または「失見当識(しつけんとうしき)」と呼ばれます。見当識障害は、脳の細胞が壊れることによって起こる認知症の中核症状の一つとされており、認知症の比較的早い段階から現れ始めるのが特徴とされているようです。
政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」によると、65歳以上の高齢者、約3603万人を対象とした2022年度の調査では、認知症の方の割合は全体の約12%、認知症の前段階にあたるとされている軽度認知障害の方の割合は約16%となっています。つまり、65歳以上の方の3人に1人が、認知機能に関わる症状があるという結果です。
また、若年性認知症のように、認知機能の障がいは65歳未満で発症するケースもみられます。そのため、見当識障害は、高齢者に限らず生じる可能性がある障がいの一つといえるでしょう。
参考:厚生労働省「政策レポート 認知症を理解する」
政府広報オンライン「知っておきたい認知症の基本」
見当識障害の種類・症状
厚生労働省「政策レポート 認知症を理解する」によると、見当識は「時」「場所」「人」に関するものがあり、認知症が進行するにつれ、「時」の見当識から順に障がいが生じるといわれています。ここでは、同資料を参考に、それぞれの見当識障害による主な症状を見ていきましょう。
「時」の見当識障害による症状
「時」の見当識障害では、時間や季節の感覚が薄れる症状が現れるのが特徴といわれています。時に関する見当識に障がいが生じると、長時間待つことや予定の時間に合わせた準備ができなくなるようです。
症状が進行すると、日付や季節、年次などが把握できなくなることも。その結果、自分の生年月日や今日の日付が分からなくなったり、季節感のない服を選んで着てしまったりすることもみられるでしょう。
また、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 こころの情報サイト「こころの病気を知る 認知症」によると、時間の見当識が失われると、出来事の前後関係が分からなくなることもあります。何年も前の出来事を最近のことのように話したり、ごはんを食べたか分からなくなったりする症状も、時の見当識障害によるものの一例であるようです。
「場所」の見当識障害による症状
「時」の見当識障害からさらに見当識障害が進むと、「場所」に関する状況が把握できなくなる症状が現れるようです。「場所」の見当識障害では、方向感覚が薄らぐことから始まるとされています。初めのうちは、夜暗くなり周囲の景色が見えなくなると、道を間違えてしまうなどの症状が出ることがあるでしょう。
症状が進行すると、時間を問わず、慣れた道でも迷子になったり、自宅のお手洗いの場所が分からなくなったりすることも。また、距離感覚が失われ、歩いて行くのが難しい距離を歩いて出かけようとするケースもあるようです。
「人」の見当識障害による症状
認知症の症状がさらに進行すると、過去の記憶を失う症状が出始めるとされています。その結果現れるのが、「人」に関する見当識障害です。「人」に関する見当識障害では、自分の年齢や人の生死に関わる記憶が無くなり、周囲の人との関係が分からなくなるなどの症状が現れることもあります。
たとえば、30歳代以降の記憶が薄れてしまった場合、50歳の娘との関係性が分からず、自身の姉や叔母と勘違いしてしまうケースも。また、時・場所に関する見当識障害の症状も相まって、随分前に亡くなった親に会いに行こうと、遠方の実家まで歩いて帰ろうとすることもあるようです。
参考:厚生労働省「政策レポート 認知症を理解する」
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 こころの情報サイト「こころの病気を知る 認知症」
見当識障害がある方と関わるときのポイント
ここでは、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 こころの情報サイト「こころの病気を知る 認知症」を参考に、見当識障害がある方と関わるときのポイントを3つ紹介します。
否定する言葉は使わない
認知症や見当識障害がある方と関わるときは、否定する言葉を使わず、相手の視点や立場に立って理解しようと努めるのがポイントです。見当識障害がある方は、時間や場所などの辻褄が合わない話をすることもあるでしょう。その際、周囲の人は話の内容を否定せず、耳を傾ける態度をとることが大切です。
しかし、場合によっては、間違っていることを伝えなければならないこともあるでしょう。たとえば、真夏にコートを着るなど季節にそぐわない服装で出かけようとしている場合、そのままでは体調不良につながるおそれも。
水戸市「夏なのにコートって-見当識障害への対応」によると、そのようなケースでは、「こちらの方が似合いますよ」と提案し、着替えを促すことが対応法の一つとして挙げられています。
本人の自尊心を傷つけることなく、適切な行動に導くためには、「今の服装は適切ではない」と直接的に否定するのではなく、周囲が提案し、最終的には本人が選ぶ形をとることが大切でしょう。
見当識を補うきっかけをつくる
見当識障害がある方と関わるときは、時間や場所、人などに関する情報を会話に入れたり、問いかけを行ったりすることも大切です。時・場所・人に関する問いかけを行うことは「リアリティ・オリエンテーション」と呼ばれ、見当識を維持するリハビリテーションとしても用いられているケースがみられます。
具体的には、見当識障害がある方が外出する際にどこに行くか尋ねたり、今日の日付や季節に関する情報を会話に盛り込んだりすると、見当識を補うきっかけをつくれるでしょう。
厚生労働省「入院・外来医療等の調査・評価分科会 これまでの検討結果【別添】資料編5」によると、テレビやカレンダー、時計などの時間が把握できるものや、場所や注意を促す掲示物を身の回りに置くことも、リアリティ・オリエンテーションの一つとして行われています。
また、水戸市「今は朝?昼?夜?-見当識障害(時間)への対応」によると、テレビを点け、番組を見ることで時間を確認する機会をつくったり、カーテンを開け閉めして部屋の明るさを調整し、一日のメリハリをつけやすくしたりすることも、見当職障害に対する対応法の一つです。
午前と午後の間違いが起こりやすい方の場合は、アナログ時計からデジタル時計に替えてみるなど、症状に合わせていろいろな工夫を取り入れてみることも大切でしょう。
保たれている機能をうまく使える工夫を取り入れる
見当識障害がある方と関わるときは、得意なことや保たれている機能をうまく使えるような接し方をすることも大切なポイントです。
厚生労働省「認知症予防・支援マニュアル(改訂版)」によると、軽度の認知症で起こる記憶障害では、エピソード記憶に障がいが起こりやすいため、場所や時間が分からなくなったり、場にそぐわない行動をしてしまったりするなどの症状が出る場合があります。
一方で、繰り返し学習して獲得する記憶は比較的保たれていることが多いようです。そのため、生活の中でエピソード記憶を補う工夫をしながら、保たれている機能は使えるように維持することが大切といえます。
生活に取り入れられる工夫の具体案は、以下のとおりです。
- いつも決まった方法でメモをつける
- 1日の予定をボードに書き、常に目に入る状態にする
- カラオケや楽器の演奏などを繰り返し練習して覚える
- 棚などの物を収納する場所には、細かくラベルを貼る
- 部屋の扉に、トイレなどの表示をする
見当識障害がある方のなかには、それまでできていたことができなくなることに対して不安を感じる人もいるでしょう。そのような不安がほかの症状を引き起こすおそれもあるため、見当識障害がある方の生活には、できることや得意なことに意識が向くような工夫を取り入れることが大切といわれています。
参考:国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 こころの情報サイト「こころの病気を知る 認知症」
水戸市「水戸市ホームページ」
厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第561回)議事次第」
厚生労働省「認知症予防・支援マニュアル(改訂版)」
見当識とは時・場所・人など状況を把握する力のこと
- 時・場所・人に対する認知力が低下することを、見当識障害や失見当識と呼ぶ
- 見当識障害は、時・場所・人の順に生じるとされている
- 見当識障害がある方と関わるときは、否定する言葉を使わないのがポイント