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保育所保育指針を解説!改定ポイントや保育実践例を知ろう
21 days ago

「保育所保育指針って何?」と疑問に思う人もいるでしょう。保育所保育指針とは、保育のねらいや内容、実施に関わる事項と、運営に関する事項について厚生労働省が定めた指針です。この記事では、保育所保育指針の5領域や10の姿といった具体的な内容や保育実践例を紹介しています。2018年に改定されたポイントにも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
保育所保育指針とは
こども家庭庁「保育所保育指針解説[1](第1章)」によると、保育所保育指針は、保育所保育の基本となる考え方や、保育のねらいおよび内容など保育の実施に関わる事項と、これに関連する運営に関する事項について定めたものです。
保育所での保育は、本来は各保育所の保育理念や目標に基づき、子どもや保護者、地域の状況を踏まえて行われるものとされています。また、保育所ごとの独自性や創意工夫が尊重されるものという一面があることも特徴です。その一方、すべての子どもの最善の利益のためには、子どもの健康や安全の確保、発達の保障などの観点から、各保育所が行うべき保育の内容などに関する全国共通の枠組みが必要となりました。
そのため、一定の保育の水準を保ち、更なる向上の起点となるよう、保育所保育指針において、すべての保育所が拠るべき保育の基本的事項を定めています。保育所保育指針は保育士資格とあいまって、保育所保育の質を担保する仕組みです。
保育所保育指針に規定されている事項の基本的考え方として、こども家庭庁「保育所保育指針解説[1](第1章)」には以下の3つが挙げられています。
- 遵守しなければならないもの
- 努力義務が課されるもの
- 基本原則にとどめ、各保育所の創意や裁量を許容するもの、または各保育所での取組が奨励されることや保育の実施上の配慮にとどまるもの
保育所はこれらを踏まえ、実情に応じて創意工夫を図って保育を行うとともに、保育所の機能および質の向上に努めなければならないとされています。
なお、保育所保育指針の柱は、一般的に「5領域」「10の姿」と呼ばれるものです。以下では、この指針の柱の内容について詳しく解説します。
参考:こども家庭庁「保育所保育指針解説[1](第1章)」(参照日:2025年1月22日)
保育所保育指針の5領域とは
厚生労働省「保育所保育指針について」によると、保育所保育指針のなかで、この時期の発達の特徴を踏まえ、保育のねらいと内容をまとめた5つの領域は、一般的に「保育所保育指針の5領域」と呼ばれます。5領域は健康・人間関係・環境・言葉・表現となっており、1歳以上3歳未満児の保育に関する指針と、3歳以上児の保育に関する指針にそれぞれ分かれているのが特徴です。
ここでは、厚生労働省「保育所保育指針について」、こども家庭庁「保育所保育指針解説[2](第2章1-2)」、こども家庭庁「保育所保育指針解説[3](第2章3-4)」をみながら、各領域におけるねらいと内容、保育実践例を解説します。
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保育所保育指針の5領域:健康
「健康」は心身の健康に関する領域で、健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養うための指針です。1歳以上3歳未満児の保育におけるねらいは以下のとおりとなっています。
- 明るく伸び伸びと生活し、自分から身体を動かすことを楽しむ
- 自分の身体を十分に動かし、さまざまな動きをしようとする
- 健康、安全な生活に必要な習慣に気付き、自分でしてみようとする気持ちが育つ
これらのねらいを受けて定められた、1歳以上3歳未満児の保育における具体的な内容と保育実践例は、以下のとおりです。
保育士等の愛情豊かな受容の下で、安定感をもって生活をする | - 子ども同士が一緒にいて心地よいと感じ、楽しく遊べるように遊びを展開する - 保育士等が交代するときには、子どもに関する情報を伝え合う |
食事や午睡、遊びと休息など、保育所における生活のリズムが形成される | - 低年齢のこどもの保育や集団での生活に慣れない時期の保育では、原則として、空腹を感じたときに食べ、眠いときに寝て、すっきりと目覚めて遊ぶという個々の子どもの生理的なリズムに沿った生活を優先する - 午睡にはゆるやかに隔離され、静かで安心して眠れる場所を確保する |
走る、跳ぶ、登る、押す、引っ張るなど全身を使う遊びを楽しむ | - 子どもがさまざまに体を動かすことを体験するために必要な環境を構成する - 子どもの個人差や興味、関心に沿った保育室の環境を整える - 子どもの興味や関心に合わせて、段差のある所から飛び降りる、傾斜のあるところを歩いて上ったり下りたりするなど全身を使う遊びを一緒に楽しむ |
さまざまな食品や調理形態に慣れ、ゆったりとした雰囲気の中で食事や間食を楽しむ | - 初めて口にする食品を提供する際には、そのおいしさが経験できるよう、「おいしいよ」「さっぱりしていて食べやすいよ」など、快の気持ちを伴う言葉をかける - 苦手そうな味や食品に関しては、形や食べる順番を変えてみる |
身の回りを清潔に保つ心地よさを感じ、その習慣が少しずつ身に付く | - 「きれいにしようね」「さっぱりしたね」など子どもに分かりやすい言葉で意味を添えながら関わりを続ける |
保育士等の助けを借りながら、衣類の着脱を自分でしようとする | - 子どもが衣類の着脱を自らしようとするときには、保育士はゆとりをもってその様子を見守り、できないところは「こうしたらよいよ」と行為を言葉にしながら援助する - 衣類の着脱に気持ちが向かわない子どもには、例えば手を電車に、袖をトンネルに見立てて、「電車がトンネルを通るよ」などと働きかけながら、その子どもの興味から繋げていくようにする |
便器での排泄に慣れ、自分で排泄ができるようになる | - おむつが濡れているときは「きれいにしようね」と声をかけながら交換する - おむつが濡れていないときは、声をかけてトイレに誘ってみる - 便器で排泄ができたときには一緒に喜ぶ - トイレに行っても出ないときには、適度な頃合いで「おやつの後にしようか」など優しく対応する |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[2](第2章1-2)」
心と体の健康は相互に密接な関連があることを踏まえ、子どもの気持ちに配慮した温かい触れ合いの中で、心と体の発達を促すことに留意する必要があります。食事に関しては、食物アレルギーのある子どもへの対応において、嘱託医などの指示や協力のもとに適切に対応することが求められるでしょう。
生活に必要な基本的な習慣については、子どもが自分でしようとする気持ちを尊重することが大切です。基本的な生活習慣の形成にあたっては、家庭での生活経験に配慮し、家庭との適切な連携の下で行うようにします。
一方、3歳以上児の保育に関するねらいは以下のとおりです。
- 明るく伸び伸びと行動し、充実感を味わう
- 自分の体を十分に動かし、進んで運動しようとする
- 健康、安全な生活に必要な習慣や態度を身に付け、見通しをもって行動する
このねらいを踏まえて定められた、3歳以上児の保育に関する内容と保育実践例は以下のとおりです。
保育士等や友達と触れ合い、安定感をもって行動する | - 保育士は一人ひとりの子どもと関わりながら、子どもがどのようにして安定感をもつようになっていくのかを捉え、子どもの心の拠りどころとなるようしっかりと子どもを受け止める |
いろいろな遊びの中で十分に身体を動かす | - 子どもの興味の広がりに沿って展開するさまざまな活動を通して、十分に全身を動かし、活動意欲を満足させる体験を積み重ねさせる |
進んで戸外で遊ぶ | - 子どもの年齢や生活経験などを考慮し、安全に配慮しながら、子どもが取り組んでみたいと思えるように保育所内の遊具や用具を配置したり、自然環境の整備をしたりする - 園庭ばかりではなく、近隣の公園や広場、野原や川原などの保育所の外に出かけることも考える |
さまざまな活動に親しみ、楽しんで取り組む | - さまざまな遊びの面白さに触れ、いろいろな経験を通して、子ども自らが積極的、主体的に選択して遊ぶようにする - 一人で取り組む、友達と一緒に取り組む、クラス全体で取り組むなど活動の特質を生かし、子どもがその活動の楽しさを味わえるよう、保育士が配慮する |
保育士等や友達と食べることを楽しみ、食べ物への興味や関心をもつ | - 子どもの食べたいという気持ちを受け止め、子どもの心に寄り添いながら、同じ気持ちをもつ友達とも一緒に昼食の時間を楽しみにする気持ちを共有する |
健康な生活のリズムを身に付ける | - 一人ひとりのもつ生活のリズムが異なることに配慮し、きめ細かな指導を行う - 保護者に子どもが健康な生活のリズムを身に付けることの大切さを伝え、家庭での生活の仕方などについての理解を促し、家庭と十分な連携を図る |
身の回りを清潔にし、衣服の着脱、食事、排泄などの生活に必要な活動を自分でする | - 例えば、手が汚れたまま食事をすると不潔なので手を洗おうというように、子ども自身が必要性に気づき、自分でしようとする気持ちが持てるように援助する - 一人ひとりの子どもが家庭でどのような生活をしているのか実態を捉え、家庭との連携を密にしながら、実情に応じて指導していく |
保育所における生活の仕方を知り、自分たちで生活の場を整えながら見通しをもって行動する | - 子どもがゆとりをもって保育所の生活を送れるようにする - 子どもの動線に配慮した手洗い場や遊具の収納など保育所の生活環境に十分配慮する |
自分の健康に関心をもち、病気の予防などに必要な活動を進んで行う | - 一人ひとりの子どもの実情を捉え、家庭との連携を図りながら、健康への関心を高め、病気を予防する態度を身に付けていくようにする |
危険な場所、危険な遊び方、災害時などの行動の仕方が分かり、安全に気を付けて行動する | - 危険な遊び方や場所、遊具などについてその場で具体的に知らせたり、気付かせたりし、状況に応じて安全な行動が取れるようにする - 安全な交通の習慣や災害、あるいは不審者との遭遇時の行動の仕方などについては、保育所全体の職員の協力体制や家庭との連携の下、子どもの発達の特性を十分に理解し、日常的な指導を積み重ねていく |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[3](第2章3-4)」
前述のとおり、心と体の健康は相互に密接な関連があります。そのため、3歳以上児には屋内や自然の中で十分に体を動かす気持ちよさを体験させ、自ら体を動かそう、自分の体を大切にしようとする気持ちが育つようにすることが大切です。
食習慣や生活習慣の形成においては、保育士やほかの子どもと関わりながら食べる喜びを味わったり、主体的に活動を行ったりする中で、生活に必要な習慣を身に付けられるようにします。
保育所保育指針の5領域:人間関係
「人間関係」は人との関わりに関する領域となっており、ほかの人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養うための指針です。
1歳以上3歳未満児の保育におけるねらいは以下のとおりとなっています。
- 保育所での生活を楽しみ、身近な人と関わる心地よさを感じる
- 周囲の子供などへの興味や関心が高まり、関わりをもとうとする
- 保育所の生活の仕方に慣れ、きまりの大切さに気づく
このねらいを受けて定められた、1歳以上3歳未満児の保育における内容と保育実践例は以下のとおりです。
保育士等や周囲の子どもなどとの安定した関係の中で、共に過ごす心地よさを感じる | - 子ども一人ひとりの内面に思いを寄せ、保育所の生活の何に心地よさを感じているのか理解しようとする |
保育士等の受容的・応答的な関わりの中で、欲求を適切に満たし、安定感をもって過ごす | - 子ども一人ひとりの行動や思いをありのまま認め、期待をもって見守る - 子ども一人ひとりの発達の違いを考慮したうえで、保育士の考えや気持ちを表情や言葉で伝える |
身の回りにさまざまな人がいることに気付き、徐々にほかの子どもと関わりを持って遊ぶ | - 子どもがほかの子どもや保護者、高齢者や障がいのある人、外国人などと関わるときに、それぞれの人の特性や多様性に気づくように関わって、人には皆違いがあるということを、子どもが感じ取れるように支える - 保育士は遊びの中で互いのよさなどが活かされ、一緒に遊ぶ楽しさをもてるよう、それぞれの友達の良いところを子どもに伝えるようにする |
保育士等の仲立ちにより、ほかの子どもとの関わり方を少しずつ身につける | - 保育士が子どもに他者との具体的な関わり方の見本を実際にしてみたり言ってみたりして示す |
保育所の生活の仕方に慣れ、きまりがあることや、その大切さに気づく | - 戸外に出るときに靴を履くことやトイレの使い方などを繰り返し経験させることで、きまりがあることを気づかせる - 子ども同士でいざこざが起きたときには、保育士はただちにきまりを伝えたり守らせたりするのではなく、まずは子どもの思いを十分に受け止め、相手の思いもあることに気づくようにする |
生活や遊びの中で、年長児や保育士等の真似をしたり、ごっこ遊びを楽しんだりする | - 子どもがほかの年齢の子どもの存在を感じ、互いに関わりを楽しめるように援助する |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[2](第2章1-2)」
1歳以上3歳未満児は、自分で何かをしようとする気持ちが旺盛になる時期です。そのため保育士は、子どもの気持ちを尊重し、温かく見守りつつ、応答的に関わり適切な援助をしていきます。
子どもの不安定な感情の表出も、保育士は受容的に受け止め、その気持ちから立ち直る経験や感情をコントロールすることへの気付きに繋げていくように援助すると良いでしょう。
また、この時期の子どもは自己と他者との違いの認識が十分でないことがほとんどです。子どもの自我の育ちを見守りつつ、保育士は適切に仲立ちとなって、友達の気持ちや友達との関わり方を丁寧に伝えていくことが求められます。
一方、3歳以上児の保育に関するねらいは以下のとおりです。
- 保育所の生活を楽しみ、自分の力で行動することの充実感を味わう
- 身近な人と親しみ、関わりを深め、工夫したり、協力したりして一緒に活動する楽しさを味わい、愛情や信頼感をもつ
- 社会生活における望ましい習慣や態度を身に付ける
このねらいを踏まえて定められた、3歳以上児の保育に関する内容と保育実践例は以下のとおりです。
保育士等や友達と共に過ごすことの喜びを味わう | - 一人ひとりの子どもに思いを寄せ、子どもの生活の仕方や生活のリズムを共にすることによって、子どもの気持ちや欲求などの目に見えない心の声を聴き、こどもの内面を理解しようとする |
自分で考え、自分で行動する | - 子どもの行動や思いをありのままに認め、期待をもって見守りながら、子どもの心の動きに沿って、子どもに伝わるように保育士の気持ちや考えを素直に言葉や行動、表情などで表現していく |
自分でできることは自分でする | - 子どもの発達に即した適切な受容や励ましなどによって、子どもが自分でやり遂げることの満足感を十分に味わえるようにする |
いろいろな遊びを楽しみながら物事をやり遂げようとする気持ちをもつ | - 子どものやり遂げたいという気持ちを大切にし、子どもが自分なりの満足感や達成感を得られるように援助をし、やり遂げたことを共に喜ぶ |
友達と積極的に関わりながら喜びや悲しみを共に共感し合う | - 保育所で安心して自分のやりたいことに取り組むことにより、友達と過ごす楽しさを味わったり、自分の存在感を得たりして、友達とさまざまな感情の交流が行えるようにする |
自分の思ったことを相手に伝え、相手の思っていることに気付く | - それぞれの子どもの主張や気持ちを十分に受け止め、互いの思いが伝わるようにしたり、納得して気持ちの立て直しができるようにしたりするために援助をする |
友達のよさに気付き、一緒に活動する楽しさを味わう | - 一人ひとりの良さや可能性を見出し、その子どもらしさを損なわず、ありのままを受け入れる姿勢で、温かい目で子どもを見守る |
友達と楽しく活動する中で、共通の目的を見いだし、工夫したり、協力したりなどする | - 一緒に遊ぶ人数に関わらず、一人ひとりの子どもが十分に自己発揮しながら、他の子どもと多様な関わりがもてるように援助し、子どもが遊ぶ中で、共通の願いや目的が生まれ、工夫したり、協力したりする楽しさを十分に味わえるようにする |
よいことや悪いことがあることに気付き、考えながら行動する | - 子どもが何をしなければならなかったのか、その行動の何が悪かったのかを考えられるような働きかけをする - ただ善悪を教え込むのではなく、子どもが自分なりに考えるように援助する |
友達との関わりを深め、思いやりをもつ | - 保育士は子ども一人ひとりを大切にし、思いやりのある行動をするモデルになることや他者の感情や相手の視点に気付くような働きかけをする |
友達と楽しく生活する中で決まりの大切さに気付き、守ろうとする | - 日々の遊びや生活の中できまりを守らなかったために起こった問題に気付き、きまりの必要性を子どもなりに理解できるようにし、単にきまりを守らせることだけでなく、必要性を理解した上で、守ろうとする気持ちをもたせる |
共同の遊具や用具を大切にし、皆で使う | - 保育士が一方的に順番を指示したり機械的にじゃんけんなどで決めたりするような安易なやり方ではなく、自分の要求と友達の要求に折り合いを付けたり、要求を修正したりする必要があることを理解していくようにする |
高齢者をはじめ地域の人々などの自分の生活に関係の深いいろいろな人に親しみをもつ | - 日常の保育の中で、地域の人々との交流の機会を積極的に取り入れる - 地域の高齢者を保育所に招く、または高齢者福祉施設を訪問して交流するなど、高齢者と触れ合う活動を工夫していく |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[3](第2章3-4)」
3歳以上児は、これまでに比べて自分を取り巻く人間関係が大きく広がります。保育士は、子どもが保育士とだけでなくほかの子どもとも関わりを深めながら、人と関わる力を育てていくよう見守ることが求められるでしょう。
また、他人の存在への気づきや自然、動植物との親しみの中で、相手を尊重する気持ちや豊かな心情が育つようにします。ときには葛藤やつまづき、折り合いをつける経験をさせることで、それらを乗り越える力や自分の気持ちを調整する力が育つようにすることも大切です。
保育所保育指針の5領域:環境
「環境」は身近な環境との関わりに関する領域で、周囲のさまざまな環境に探求心をもって関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養うための指針が定められています。1歳以上3歳未満児の保育におけるねらいは、以下のとおりです。
- 身近な環境に親しみ、触れ合う中で、さまざまなものに興味や関心をもつ
- さまざまなものに関わる中で、発見を楽しんだり、考えたりしようとする
- 見る、聞く、触るなどの経験を通して、感覚の働きを豊かにする
このねらいを受けて定められた、1歳以上3歳未満児の保育における内容と保育実践例は以下のとおりとなっています。
安全で活動しやすい環境での探索活動などを通じて、見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わうなどの感覚の働きを豊かにする | - 子どもの活発な探索活動が豊かな感覚や感性を促していくことに留意し、安全で活動しやすい環境を整えるとともに、自らも感受性を豊かにし、子どもの思いを受け止めて丁寧に関わる - 保育士は、子どもにとって、何か困ったことや怖いことがあったときには慰めたり助けたりしてくれる安全基地のような存在として近くにいるようにする |
玩具、絵本、遊具などに興味をもち、それらを使った遊びを楽しむ | - 「これは何のお店なの」などといった言葉かけを行い、それまでとは違う遊び方やイメージを取り入れて遊びを発展させる援助を行う |
身の回りの物に触れる中で、形、色、大きさ、量などの物の性質や仕組みに気づく | - 予想される遊びに限定することなく、子どもの好奇心をもって遊ぶ姿を認め、豊かに遊びが展開されるよう共感的に関わる - さまざまな遊具や用具、素材などを用意するとともに、衛生面や安全面への配慮がなされた環境を整える |
自分の物と人の物の区別や、場所的感覚など、環境を捉える感覚が育つ | - 保育士が人やものに対して愛着を持って関わる姿に触れさせることで、自分も身近な人やものを大切に使用とする気持ちの芽生えを手助けする - 居心地の良さや「ここは自分の居場所である」という感覚を子どもが持てるよう、保育の環境を整えていく |
身近な生き物に気付き、親しみをもつ | - 保育士や年上の子どもたちが行う生き物の世話を手伝ってもらうことで、慣れ親しんだ生き物に愛着を感じてもらう |
近隣の生活や季節の行事などに興味や関心をもつ | - 行事に合わせて彩りの添えられた保育室の飾りや食事、わくわくするような活動、少しだけ改まって特別感を味わう体験など、季節感を取り入れた生活を楽しむ取組を保育に取り入れる - 子どもが季節の行事などに興味を持って発する言葉に共感し、適切に働きかけていく |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[2](第2章1-2)」
玩具などは、音質・形・色・大きさなど子どもの発達状態に応じて適切なものを選ぶことで、遊びを通して感覚の発達が促されるように工夫する必要があります。
地域の生活や季節の行事に触れる際は、保育所内外の行事や地域の人々との触れ合いなどを通して行うことも考慮することで、社会との繋がりや地域社会の文化への気付きに繋げる ようにすることが望ましいでしょう。
一方、3歳以上児のねらいは以下のとおりです。
- 身近な環境に親しみ、自然と触れ合う中で、さまざまな事象に興味や関心をもつ
- 身近な環境に自分から関わり、発見を楽しんだり、考えたりし、それを生活に取り入れようとする
- 身近な事象を見たり、考えたり、扱ったりする中で、物の性質や数量、文字などに対する感覚を豊かにする
3歳以上児の保育に関する内容と保育実践例は以下のとおりです。
自然に触れて生活し、その大きさ、美しさ、不思議さなどに気付く | - 保育所の生活の中でも、できるだけ身近な自然に触れる機会を多くし、子どもなりにその大きさ、美しさ、不思議さなどを全身で感じ取る体験をもつようにする |
生活の中で、さまざまな物に触れ、その性質や仕組みに興味や関心をもつ | - 子どもが自分のリズムで遊びを展開し、試行錯誤しながら仲間と情報を交流するといったことを通して、物の性質や仕組みに興味をもち、物との関わりを楽しみ、興味や関心を深めていくことを踏まえて、援助する |
季節により自然や人間の生活に変化のあることに気付く | - 保育所内の自然環境を整備したり、季節感のある遊びを取り入れたりするなどして、保育所の生活の自然な流れの中で、子どもが季節の変化に気付き、感じ取れるようにする |
自然などの身近な事象に関心をもち、取り入れて遊ぶ | - 遊びが子どもの興味や関心に基づいて十分に繰り返されるように援助しながら、子どもの自然などの身近な事象への関心が高まるようにする |
身近な動植物に親しみをもって接し、生命の尊さに気付き、いたわったり、大切にしたりする | - 保育士等周囲の人々が世話をする姿に接することを通して、次第に身近な動植物に親しみをもって接するようにし、実際に世話をすることによって、いたわったり、大切にしたりしようとする気持ちを育てる |
日常生活の中で、我が国や地域社会におけるさまざまな文化や伝統に親しむ | - 保育士と一緒に飾りを作りながら七夕の由来を聞くなどして、次第にそのいわれやそこに込められている人々の願いなどにも興味や関心をもてるようにする |
身近な物を大切にする | - 保育士は、子どもが遊びを十分に楽しめるように援助する - 保育士自身が物に愛着をもち、大切に取り扱っている様子を子どもに示す |
身近な物や遊具に興味をもって関わり、自分なりに比べたり、関連付けたりしながら考えたり、試したりして工夫して遊ぶ | - 子どもが心と体を働かせて物とじっくりと関われるような環境を構成し、対象となるその物に十分に関われるようにする |
日常生活の中で数量や図形などに関心をもつ | - 生活の中で子どもが必要感を得て数えたり、量を比べたり、形を組み合わせて遊んだり、積み木やボールなどの立体に触れたりするなど、多様な経験を積み重ねながら数量や図形などに関心をもつようにする |
日常生活の中で簡単な標識や文字などに興味をもつ | - 子どもが標識や文字との新鮮な出会いを体験できるよう、生活の中でさまざまな標識(交通標識など)に触れたり、自分たちで標識(クラスの標識、グループの標識、トイレの標識など)を作って生活したりといった体験をさせる |
生活に関係の深い情報や施設などに興味や関心をもつ | - 保育士自身が興味深く見た放送の内容、地域の催しや出来事などのさまざまな情報の中から子どもの生活に関係の深い情報を適切に選択し、折に触れて提示していくなど、子どもの興味や関心を引き出していく - 図書館や高齢者福祉施設などのさまざまな公共の施設を利用したり、訪問したりする機会を設け、子どもが豊かな生活体験を得られるようにする |
保育所内外の行事において国旗に親しむ | - 国旗が掲揚されている運動会に参加したり、自分で国旗を作ったりして、日常生活の中で国旗に接するいろいろな機会をもたせる |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[3](第2章3-4)」
3歳以上児の環境の領域では、子どもが遊びの中で、周囲の世界への好奇心や物事の法則性に気付き、自分なりに考えられるようになる過程を大切にすることが定められています。子どもが文化や伝統に親しむ際には、日本の伝統的な遊びや異なる文化に触れる活動に親しむことを通して、社会との繋がりの意識や、国際理解への意識の芽生えなどが養われる取組を行うことが大切です。
保育所保育指針の5領域:言葉
「言葉」は言葉の獲得に関する領域で、経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養うための指針です。1歳以上3歳未満児の保育におけるねらいは以下のとおりとなっています。
- 言葉遊びや言葉で表現する楽しさを感じる
- 人の言葉や話を聞き、自分でも思ったことを伝えようとする
- 絵本や物語などに親しむとともに、言葉のやり取りを通して身近な人と気持ちを通わせる
ねらいを受けて定められた、1歳以上3歳未満児の保育における内容と保育実践例は以下のとおりです。
保育士等の応答的な関わりや話しかけにより、自ら言葉を使おうとする | - 言葉を獲得する前の子どもの表情や姿をよく観察し、その場面に適した言葉をかけたり、子どもの発声を真似たりしながら声や身振りを介した関わりを楽しいものにしていく |
生活に必要な言葉に気付き、聞き分ける | - 子どもが生活の中で使う言葉を十分に理解できるように、その意味するところを場面を捉えて丁寧に伝えるとともに、それらの言葉に親しみ、言葉によって人との関わりが豊かになる経験ができるよう援助していく |
親しみをもって日常の挨拶に応じる | - 保育士は子どもが言葉を交わしたくなるような信頼関係を築く - 子どもが挨拶の心地よさを感じたり、挨拶に応じたくなったりするような、明るく和やかな雰囲気となるよう心掛ける - 保育士が、日常的に自ら率先して子どもや保護者を含めた周囲の人に挨拶をしている姿を示す |
絵本や紙芝居を楽しみ、簡単な言葉を繰り返したり、模倣をしたりして遊ぶ | - 子どもが気に入った絵本や紙芝居は、求められたら何度でも繰り返し読む |
保育士等とごっこ遊びをする中で、言葉のやり取りを楽しむ | - 布や箱のようなさまざまなものに見立てられる素材や、エプロンやままごとなどの遊具などのイメージを支える小道具などを用意する - 保育士も子どもと一緒に遊んだりしながら、子どもが膨らませたイメージに応答的に関わり、広げていく援助を行う |
保育士等を仲立ちとして、生活や遊びの中で友達との言葉のやり取りを楽しむ | - 保育士は子どもの気持ちを代弁したり、さらにやり取りが引き出されるような応答をしたりして、ほかの子どもとの仲立ちをする |
保育士等や友達の言葉や話に興味や関心をもって、聞いたり、話したりする | - 子どもが安心して自分を表現できるよう、温かな雰囲気で子どもの気持ちを受け止める - 子どもが自ら話そうとする意欲を見守りながら、親しみをもって接する - 温かなまなざしで子どもと視線を合わせて、子どもの話にゆったりと耳を傾け、受容的に応じるようにする |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[2](第2章1-2)」
子どもは次第に言葉が獲得されていくものであることを考慮し、楽しい雰囲気のなかで言葉のやり取りができるようにしていきます。子どもの言葉は片言から二語文、ごっこ遊びでのやり取りができる程度へと、短期間で大きく言葉の習得が進むのが特徴です。それぞれの子どもの発達状況に応じて、保育士は保育の内容を適切に展開することが必要でしょう。
一方、3歳以上児の保育におけるねらいは以下のとおりです。
- 自分の気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう
- 人の言葉や話などをよく聞き、自分の経験したことや考えたことを話し、伝え合う喜びを味わう
- 日常生活に必要な言葉が分かるようになるとともに、絵本や物語などに親しみ、言葉に対する感覚を豊かにし、保育士等や友達と心を通わせる
「言葉」領域における3歳以上児の保育の内容と保育実践例は、以下のとおりとなっています。
保育士等や友達の言葉や話に興味や関心をもち、親しみをもって聞いたり、話したりする | - 子どもが保育士や友達との間に安心して話せる雰囲気をつくる |
したり、見たり、聞いたり、感じたり、考えたりなどしたことを自分なりに言葉で表現する | - 子どもなりの動きを交えた表現を保育士が受け止め、積極的に理解する |
したいこと、してほしいことを言葉で表現したり、分からないことを尋ねたりする | - 集団生活の中での人との関わりを通して、子どもが自分のしたいこと、相手にしてほしいことの言葉による伝え方や、相手の合意を得ることの必要性を理解できるよう援助する |
人の話を注意して聞き、相手に分かるように話す | - 話を聞くことに関わるさまざまな体験を積み重ねることを通して、相手が伝えようとしている内容に注意を向けることへの必要感をもてるよう援助する |
生活の中で必要な言葉が分かり、使う | - 実際に行動する中で言葉の意味に子ども自身が気付くように援助していく |
親しみをもって日常の挨拶をする | - 保育士が朝や帰りに子どもたちに気軽に言葉をかけたり、また、保育士同士や保護者や近隣の人々とも気軽に挨拶を交わしたり、感謝やお礼の気持ちを言葉で伝えたりする姿などを示す |
生活の中で言葉の楽しさや美しさに気付く | - 保育所の生活において絵本や物語などの話や詩などの言葉、保育士の話す言葉に耳を傾けられる環境を作る |
いろいろな体験を通じてイメージや言葉を豊かにする | - 例えば、「まぶしいこと」を「目がチクチクする」と感じたことをそのままに表現する、といったような子どもらしい表現を受け止める |
絵本や物語などに親しみ、興味をもって聞き、想像をする楽しさを味わう | - 保育士は絵本や物語、紙芝居を読んだり、物語や昔話を話したりすることで、子どもに絵本や物語の世界に浸る体験をさせる |
日常生活の中で、文字などで伝える楽しさを味わう | - 読み書きする関心や能力は個人差が大きいことにも配慮し、保育士は子どもが文字などの記号に親しむことができるようにする - それぞれの子どもなりの文字などの記号を使って楽しみたいという関心を受け止めて、その子どもなりに必要感をもって読んだり、書いたりできるよう一人ひとりへ援助を行う |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[3](第2章3-4)」
保育士やほかの子どもとの関わり、絵本や物語、日常生活の中などで、子どもが言葉による伝え合いや文字に触れられるようにします。子どもは言葉の響きやリズム、新しい言葉や表現に触れることで、言葉が豊かになるでしょう。
保育所保育指針の5領域:表現
「表現」は感性と表現に関する領域で、感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにするための指針です。1歳以上3歳未満児の保育におけるねらいは以下のとおりとなっています。
- 身体の諸感覚の経験を豊かにし、さまざまな感覚を味わう
- 感じたことや考えたことなどを自分なりに表現しようとする
- 生活や遊びのさまざまな体験を通して、イメージや感性が豊かになる
このねらいを踏まえて定められた、1歳以上3歳未満児の保育における内容と保育実践例は以下のとおりです。
水、砂、土、紙、粘土などさまざまな素材に触れて楽しむ | - 季節の移ろいを感じる子どもの活動を保育士も一緒に経験し、自身の心の内側から出てくる言葉を発する |
音楽、リズムやそれに合わせた体の動きを楽しむ | - 保育士も音楽やリズムにあわせて歌いながら、手や足を伸ばしたり体を左右に揺らしたりする - 子どもが自分の思いや体の動きと音楽やリズムの繋がりを、心から楽しむ経験を重ねさせる |
生活の中でさまざまな音、形、色、手触り、動き、味、香りなどに気付いたり、感じたりして楽しむ | - 例えば、赤く色付いた葉を拾ってきた子どもに対し「きれいね。真っ赤だね。」などと保育士が子どもの発見や感動を受け止め、「どこで見つけたの?私も探してみよう。」と一緒に集めるなど共感的に関わる - 保育士は子どもの感覚に心を傾け、子どもの感動や発見に寄り添いながら、子どもの感性が豊かに育つよう働きかける |
歌を歌ったり、簡単な手遊びや全身を使う遊びを楽しんだりする | - 子どもが歌や動きに合わせて体を動かしたり、一緒に歌おうとしたり、自ら口ずさもうしたりするときに、保育士は温かく受け止め、子どもの感じている楽しさを共有する |
保育士等からの話や、生活や遊びの中での出来事を通して、イメージを豊かにする | - これまでの過程や子どもの喜びを受け止める言葉がけをする - 生活や遊びの中で子どもが味わう悔しさや戸惑い、嬉しさや誇らしさを丁寧に受け止め、思いに沿った言葉をかけながら、意欲を支えていく |
生活や遊びの中で、興味のあることや経験したことなどを自分なりに表現する | - 子どもの表現する世界を一緒に楽しみながら、そのイメージを広げるような関わりをすることで、さらにその表現が豊かになっていくよう援助する - それぞれの子どもの表現する世界を大切にしながら、保育士が仲立ちし子ども通しの世界を繋げる |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[2](第2章1-2)」
保育士は、子どもが試行錯誤しながらさまざまな表現を楽しむことや、自分の力でやり遂げる充実感などに気付くよう、温かく見守るとともに、適切に援助を行います。受容的な関わりの中で自信をもって表現をすることや、諦めずに続けた後の達成感などを感じられるような経験が蓄積されるようにすることも大切です。
発見や心が動く経験が得られるよう、諸感覚を働かせることを楽しむ遊びや素材を用意するなど、保育の環境を整えることも求められます。
一方、3歳以上児の保育におけるねらいは以下のとおりです。
- いろいろなものの美しさなどに対する豊かな感性をもつ
- 感じたことや考えたことを自分なりに表現して楽しむ
- 生活の中でイメージを豊かにし、さまざまな表現を楽しむ
ねらいを受けて定められた、3歳以上児の保育における内容と保育実践例は以下のとおりです。
生活の中でさまざまな音、形、色、手触り、動きなどに気付いたり、感じたりするなどして楽しむ | - 子どもが周囲の環境に対して何かに気付いたり感じたりして、その気持ちを表現しようとする姿を温かく見守り、共感し、心ゆくまで対象と関わることを楽しめるようにする |
生活の中で美しいものや心を動かす出来事に触れ、イメージを豊かにする | - 子どもの感じている心の動きを受け止め、共感する - 保育士のもつイメージを一方的に押し付けるのではなく、子どものイメージの豊かさに関心をもって関わりそれを引き出していくようにする |
さまざまな出来事の中で、感動したことを伝え合う楽しさを味わう | - じっと見る、歓声を上げる、身振りで伝えようとするなど言葉以外のさまざまな方法で感動したことを表現している子どもを保育士は受容し、共感をもって受け止める - 保育士が仲立ちとなって周りの子どもに伝えながら、その子どもの感動を皆で共有することや伝え合うことの喜びを十分に味わえるようにする |
感じたこと、考えたことなどを音や動きなどで表現したり、自由にかいたり、つくったりなどする | - 表現の手段が分化した専門的な分野の枠にこだわらず、子どもの素朴な表現を大切にして、子どもが何に心を動かし、何を表そうとしているのかを受け止めながら、子どもが表現する喜びを十分に味わえるようにする |
いろいろな素材に親しみ、工夫して遊ぶ | - 子どもがイメージを広げたり、そのイメージを表現したりできるような魅力ある素材が豊かにある環境を準備する |
音楽に親しみ、歌を歌ったり、簡単なリズム楽器を使ったりなどする楽しさを味わう | - 正しい発声や音程で歌うことや楽器を正しく上手に演奏することではなく、子ども自らが音や音楽で十分遊び、表現する活動を受け止め、認める |
かいたり、つくったりすることを楽しみ、遊びに使ったり、飾ったりなどする | - 子どもの視点に立ち、子どもがかいたりつくったりするものに託しているイメージを受け止める |
自分のイメージを動きや言葉などで表現したり、演じて遊んだりするなどの楽しさを味わう | - 子どものもっているイメージがどのように遊びの中に表現されているかを理解しながら、そのイメージの世界を十分に楽しめるように、イメージを表現するための道具や用具、素材を用意し、子どもと共に環境を構成していく |
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[3](第2章3-4)」
保育士は、子どもが風の音や雨の音、草や鼻の形や色など身近な環境と十分に関わる中で、得た感動から豊かな感性が養われるよう、保育を進める必要があります。子どもの自己表現は素朴な形で行われるため、保育士は子どもの表現しようとする意欲を受け止めることが大切です。
また、保育士は遊具や用具などを整えたり、素材や表現の仕方に親しんだり、ほかの子どもの表現に触れられるよう配慮したりして、子どもが表現する過程を大切にして自己表現を楽しめるように工夫することも必要でしょう。
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[2](第2章1-2)」(参照日:2025年1月22日)
こども家庭庁「保育所保育指針解説[3](第2章3-4)」(参照日:2025年1月22日)
保育所保育指針の10の姿とは
厚生労働省「保育所保育指針について」によると、10の姿とは、保育所保育指針の中で「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として挙げられている10項目のことです。
保育活動全体を通して資質・能力が育まれている子どもの小学校就学時の具体的な姿が示されており、保育士が指導を行う際に考慮するものとされています。子どもが育ってほしい方向性を示しているため、目標や課題ではなく、「姿」と表現されているのが特徴です。
ここでは厚生労働省「保育所保育指針について」、こども家庭庁「保育所保育指針解説[1](第1章)」を参考に、それぞれの「姿」の詳細や保育士に求められることをみていきましょう。
健康な心と体
「健康な心と体」とは、保育所保育指針では「保育所の生活の中で、充実感をもって自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせ、見通しをもって行動し、自ら健康で安全な生活をつくり出すようになる」ことと記載されています。
健康な心と体は、他者との信頼関係の下で、自分のやりたいことに向かって伸び伸びと取り組む中で育まれていくとされるものです。
保育士は、保育所の生活の流れ、保育所内の場所や遊具、保育士や友達などそれぞれが子どもにどのように受け止められ、いかなる意味をもつのかについて捉え、子どもの主体的な活動を促す環境をつくり出すことが必要となります。健康で安全な生活のために必要なことを、クラスで話題にして一緒に考えてやってみたり、自分たちでできたことを十分に認めたりするなど、自分たちで生活をつくり出している実感をもてるようにすることが大切になるでしょう。
自立心
「自立心」は保育所保育指針では「身近な環境に主体的に関わりさまざまな活動を楽しむ中で、しなければならないことを自覚し、自分の力で行うために考えたり、工夫したりしながら、諦めずにやり遂げることで達成感を味わい、自信をもって行動するようになる」と記載されています。
自立心は、保育所の生活において、保育士との信頼関係を基盤に自己を発揮し、身近な環境に主体的に関わり自分の力でいろいろな活動に取り組む中で育まれるとされる姿です。
保育士は、子どもが自分で活動を選びながら保育所の生活を主体的に送れるように、その日に必要なことなどを、どの子どもも分かりやすいように視覚的に提示するなどの工夫を行います。子どもが自分で考えて行動できるよう、ゆとりをもった保育所の生活の流れに配慮するとともに、子ども一人ひとりの発達の実情に応じて、その日の流れを意識できるように個別に援助していくことも大切です。
協同性
「協同性」は、保育所保育指針によると「友達と関わる中で、互いの思いや考えなどを共有し、共通の目的の実現に向けて、考えたり、工夫したり、協力したりし、充実感をもってやり遂げるようになる」と記載されています。
協同性は、保育士との信頼関係を基盤にほかの子どもとの関わりを深め、思いを伝え合ったり試行錯誤したりしながら一緒に活動を展開する楽しさや、共通の目的が実現する喜びを味わう中で育まれていくものです。
保育士は子どもたちの願いや考えを受け止め、共通の目的の実現のために必要なことや、困難が生じそうな状況などを想定しつつ、子ども同士で試行錯誤しながらも一緒に実現に向かおうとする過程を丁寧に捉える必要があります。一人ひとりの自己発揮や友達との関わりの状況に応じて、適時に援助することも必要です。
道徳心・規範意識の芽生え
「道徳心・規範意識の芽生え」は、保育所保育指針には「友達とさまざまな体験を重ねる中で、してよいことや悪いことが分かり、自分の行動を振り返ったり、友達の気持ちに共感したりし、相手の立場に立って行動するようになる」と記載されています。また、「きまりを守る必要性が分かり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、きまりをつくったり、守ったりするようになる」とも記載があります。
道徳性・規範意識の芽生えは、保育所の生活における他の子どもとの関わりにおいて、自分の感情や意志を表現しながら、ときには自己主張のぶつかり合いによる葛藤などを通して互いに理解し合う体験を重ねる中で育まれていくとされる姿です。
保育士は、それまでの子どもの経験を念頭に置き、相手の気持ちを分かろうとしたり、遊びや生活をよりよくしていこうとしたりする姿を丁寧に捉え、認め、励まし、その状況などをクラスの子どもにも伝えていくことが求められます。また、子どもが自分の言動を振り返り納得して折り合いを付けられるように、問いかけたり共に考えたりし、子どもが自分たちで思いを伝え合おうとする姿を十分に認め、支えていく援助も必要です。
社会生活と関わり
「社会生活と関わり」は、保育所保育指針には「家族を大切にしようとする気持ちをもつとともに、地域の身近な人と触れ合う中で、人とのさまざまな関わり方に気付き、相手の気持ちを考えて関わり、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に親しみをもつようになる」と記載されています。
また、「保育所内外のさまざまな環境に関わる中、遊びや生活に必要な情報を取り入れ、情報に基づき判断したり、情報を伝え合ったり、活用したりするなど、情報を役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用するなどして、社会との繋がりなどを意識するようになる」とも記載があります。
幼児期の社会生活との関わりは、保育所の生活において保護者や周囲の人々に温かく見守らているという安定感や、保育士等との信頼関係を基盤に、クラスの子どもとの関わりから保育所全体へ、さらに地域の人々や出来事との関わりへと、次第に広がりをもっていくものです。
保育士は、子どもが相手や状況に応じて考えて行動しようとする姿などを捉え、認めたり、クラスの話題にして共有したりすることが必要となります。その体験が、保育所内において年下の子どもや保育所に在籍していない地域の子ども、保護者などとの関わりにもつながっていくことを念頭に置き、子どもの姿を細やかに捉えていくことが必要です。
思考力の芽生え
「思考力の芽生え」は、保育所保育指針では「身近な事象に積極的に関わる中で、物の性質や仕組みなどを感じ取ったり、気付いたりし、考えたり、予想したり、工夫したりするなど、多様な関わりを楽しむようになる」と記載されています。
また、「友達のさまざまな考えに触れる中で、自分と異なる考えがあることに気付き、自ら判断したり、考え直したりするなど、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる」とも記載があります。
思考力の芽生えは、周囲の環境に好奇心をもって積極的に関わりながら、新たな発見をしたり、より面白くなる方法を考えたりする中で育まれていくとされる姿です。
保育士は、子どもが不思議さや面白さを感じ、こうしてみたいという願いをもつことにより、新しい考えが生み出され、遊びが広がっていくことを踏まえる必要があります。環境の中にあるそれぞれの物の特性を生かしつつ、その環境から子どもの好奇心や探究心を引き出せるような状況をつくるとともに、それぞれの子どもの考えを受け止め、そのことを言葉にして子どもたちに伝えながら、更なる考えを引き出していくことが求められるでしょう。
自然との関わり・生命尊重
「自然との関わり・生命尊重」は、保育所保育指針には、「自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、好奇心や探究心をもって考え言葉などで表現しながら、身近な事象への関心が高まるとともに、自然への愛情や畏敬の念をもつようになる」と記載されています。
また、「身近な動植物に心を動かされる中で、生命の不思議さや尊さに気付き、身近な動植物への接し方を考え、命あるものとしていたわり、大切にする気持ちをもって関わるようになる」とも記載があります。
幼児期の自然との関わり・生命尊重は、保育所の生活において、身近な自然と触れ合う体験を重ねながら、自然への気付きや動植物に対する親しみを深める中で育まれていくとされる姿です。
保育士は、保育所内外の自然の状況を把握して積極的に取り入れるなど、子どもの体験を豊かにする環境をつくり出し、子どもが好奇心や探究心をもって見たり触れたりする姿を見守ることが大切になります。ときには、子どもの体験していることや気付いたことを保育士が言葉にして伝えることによって、子どもがそのことを自覚して、考えたことを言葉などで表現し、さらに自然との関わりが深まるようにすることも必要です。
数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
「数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚」は、保育所保育指針には、「遊びや生活の中で、数量や図形、標識や文字などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりし、自らの必要感に基づきこれらを活用し、興味や関心、感覚をもつようになる」と記載されています。
子どもの数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚は、日常生活の中で、数量や文字などに接しながらその役割に気付き、親しむ体験を通じて育まれていくものです。
保育士は、子どもが関心をもったことに存分に取り組めるような生活を展開する中で、一人ひとりの数量や図形、標識や文字などとの出会いや関心のもちようを把握することが必要とされます。それぞれの場面での子どもの姿を捉え、その活動の広がりや深まりに応じて数量や文字などに親しめるよう、工夫しながら環境を整えることも求められるでしょう。
言葉による伝え合い
「言葉による伝え合い」は、保育所保育指針には、「保育士等や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付け、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる」と記載されています。
言葉による伝え合いは、身近な親しい人との関わりや、絵本や物語に親しむ中で、さまざまな言葉や表現を身に付け、自分が経験したことや考えたことなどを言葉で表現し、相手の話に興味をもって聞くことなどを通して、育まれていくとされる姿です。
保育士は、子どもの状況に応じて、言葉を付け加えるなどして、子ども同士の話が伝わり合うように援助をする必要があります。また、絵本や物語の世界に浸り込むことで、豊かな言葉や表現に触れられるようにしたり、保育士自身が豊かな表現を伝えるモデルとしての役割を果たすことで、さまざまな言葉に出会う機会をつくったりするなどの配慮をすることが必要です。
豊かな感性と表現
「豊かな感性と表現」は、保育所保育指針には、「心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、さまざまな素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、意欲をもつようになる」と記載されています。
幼児期の豊かな感性と表現は、保育所の生活のさまざまな場面で美しいものや心を動かす出来事に触れ てイメージを豊かにし、表現に関わる経験を積み重ねたり、楽しさを味わったりしながら、育まれていくとされる姿です。
保育士は、一人ひとりの子どもがさまざまに表現する楽しさを大切にするとともに、多様な素材や用具に触れながらイメージやアイデアが生まれるように、環境を整えていく必要があります。子ども同士で表現を工夫しながら進める姿や、それぞれの表現を友達と認め合い、取り入れたり新たな表現を考えたりすることを楽しむ姿を十分に認め、更なる意欲に繋げていくことも必要でしょう。
参考:厚生労働省「保育所保育指針について」
こども家庭庁「保育所保育指針解説[1](第1章)」(参照日:2025年1月22日)
保育所保育指針2018年の改定ポイント
こども家庭庁「保育所保育指針解説[1](第1章)」によると、保育所保育指針は1965年に策定された後、1990年、1999年、2008年と改定を重ね、2025年現在、最新版は2018年改定版となっています。2008年時点の保育所保育指針と比べて、2018年にはどのような点が改定されたのか、こども家庭庁「保育所保育指針解説[1](第1章)」を参考に見ていきましょう。
乳児・1歳以上3歳未満児の記載が増加
2018年の保育所保育指針の改定では、乳児や1歳以上3歳未満児についての記載が増加しました。
乳児から2歳児までは、心身の発達の基盤が形成される上で極めて重要な時期です。そのため、3歳未満児と3歳以上児の保育の意義を明確化し、内容の充実が図られました。前述の解説をみても、5領域の内容が1歳以上児から3歳未満児と3歳以上児で、ねらいや内容が分けられており、記載内容が充実したことがわかります。
保育所保育における幼児教育の積極的な位置づけ
2018年の保育所保育指針の改定では、保育所保育における幼児教育の積極的な位置づけがなされました。
これまでは幼保連携型認定こども園や幼稚園が「幼児教育を担う施設」として位置づけされていました。しかし、保育所保育指針が2018年改定で「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」「幼稚園教育要領」との整合性を図ったことで、保育所も幼児教育を担う施設として位置づけを図った形になります。
特に、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を明確化することで、保育計画の作成と評価、改善の記載内容も充実させているのが特徴です。
健康・安全の記載の見直しと災害への備えが追加
2018年の保育所保育指針の改定では、健康・安全に関する記載の見直しと、災害への備えの記載が追加されました。
健康と安全については、食物アレルギーをはじめとするアレルギー疾患への対応や保育中の事故防止など、保育園内における体制構築や環境面での配慮、関係機関との連携についての記載が追加されています。より危険な状態を回避するような文言が加えられているのも特徴です。
災害への備えが追加された背景には、近年みられる大きな災害により、安全・防災の必要性に対する社会性意識が高まっている点があります。そのため、子どもの生命を守るために、災害時の対応を保護者と共有し、平時からの備えや危機管理体制づくりを行政や地域の関係機関と連携しながら進めることが記載されました。
保護者・家庭・地域と連携した子育て支援の強化
2018年の保育所保育指針の改定では、保護者・家庭・地域と連携した子育て支援の強化について記載されています。
保育ニーズの多様化に伴い、子育て家庭に対する支援の必要性は以前より高まっているのが現状です。そのため、保育所は、地域の子育て支援に携わる期間や団体など、社会資源との連携や協働を深めることが求められます。保護者と連携して子どもの育ちを支えるという視点を持ちつつ、保護者の支援だけでなく、地域ぐるみで包括的な子育て支援を展開することが記載されました。
職員の資質・専門性の向上に関する記載の追加
2018年の保育所保育指針の改定では、職員の資質・専門性の向上に関する記載が追加されました。
近年では保育所に求められる機能や役割が多様化し、保育をめぐる課題も複雑化しています。そのため、保育士をはじめ、保育所の職員が職位や職務内容に応じて、組織の中でどのような役割や専門性を求められているかを理解し、必要な力を身に付けていけるよう、キャリアパスを明確にし、体系的な研修計画の作成が必要となったのです。
2017年4月にはそれらの考え方を踏まえて、「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」が制定されました。近年、保育所に求められる機能・役割や、ガイドラインの制定を受けて、保育所保育指針内でも職員の資質向上を図るための方向性や方法が記載されることになりました。
参考:こども家庭庁「保育所保育指針解説[1](第1章)」(参照日:2025年1月22日)
保育所保育指針は保育のねらいや内容が定められている
- 保育所保育指針は保育に関するねらいや内容、求められる実践例などが記載されている
- 保育所保育指針は大きな柱として5領域と10の姿が記載されている
- 保育所保育指針は2018年の改定で災害対策や職員研修の記載が追加された